キャンプでの炊飯や調理、旅館の一人鍋などでおなじみの固形燃料。
小さくて軽く、着火するだけで一定時間燃焼してくれる便利な燃料ですが、「固形燃料はメタノールを使っているから危険」「固形燃料で食品を直接炙ると体に悪い」といった情報を見かけることがあります。
実は、以前のこの記事でも同じような説明をしていました。
「固形燃料を燃やすとメタノールが揮発し、その炎で食品を直接加熱するとメタノールが食品に付着するため危険」
という内容です。
しかし、改めてメーカーの製品情報やSDS(安全データシート)、厚生労働省などの資料を確認したところ、この説明には十分な根拠がないことが分かりました。
メタノールそのものに強い毒性があることは間違いありません。
しかし、
「メタノールは有毒である」ことと、「メタノールを燃料にした炎で加熱した食品が有毒である」ことは別の話です。
以前この記事で正確ではない情報を公開していたことを訂正するとともに、固形燃料には実際にどのような危険があるのか、改めて信頼できる資料をもとに整理してみます。
固形燃料の主成分はメタノール?

まず、「固形燃料には有毒なメタノールが使われている」という話から確認します。
固形燃料にもさまざまな製品がありますが、旅館の鍋料理やキャンプなどでよく使われる青色の固形燃料には、メタノールを主成分とした製品があります。
メタノール(メチルアルコール)はアルコールの一種で、燃料や工業用溶剤などとして広く利用されている物質です。
そして、メタノールそのものには明確な毒性があります。
厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」では、メタノールを飲み込んだ場合の症状として腹痛、嘔吐、意識喪失、視力障害などが挙げられ、失明や死亡に至ることがあるとされています。
CDC(米国疾病予防管理センター)傘下のNIOSHも、メタノール中毒によって代謝性アシドーシス、視覚障害、失明、死亡などが起こり得るとしています。
そのため、固形燃料そのものを口に入れたり、子どもなどが誤食したりしないようにする必要があります。
「固形燃料にはメタノールが含まれているものがあり、そのメタノールには毒性がある」。
ここまでは間違いありません。問題は、ここから先です。
「メタノールは有毒だから直火調理も危険」は正しい?
以前のこの記事では、
「固形燃料を燃やすとメタノールが揮発し、その炎で直接食品を加熱すると、メタノールが食品に付着する」
という説明をしていました。
しかし、改めて調べてみると、この説明を裏付ける信頼性の高い資料を確認することができませんでした。
そもそも燃料として燃えているメタノールは、単純に蒸発して食品へ移動しているわけではありません。メタノールは可燃性物質なので、着火すると酸素と反応して燃焼します。そのため、
「メタノールを燃やしている」=「食品にメタノールを吹き付けている」
と考えることはできません。
そして、実際の固形燃料の使われ方を見ると、さらに分かりやすい例があります。
業務用固形燃料を製造している株式会社ニイタカは、メタノール系固形燃料「カエン ニューエース」の用途として鍋料理や釜飯などを紹介しており、製品サイズごとの使用例には「干物の網焼き」も掲載しています。つまり、少なくともメーカーが食品の直火加熱を想定しているメタノール系固形燃料は実際に存在します。したがって、
「メタノール系固形燃料の炎で食品を直接加熱すると、メタノールが食品に付着して危険」
という以前のこの記事の説明は正確ではありませんでした。訂正し、お詫びします。
では、固形燃料なら何でも直火調理していい?
しかし、ここで逆方向に話を飛躍させないことも重要です。「メタノールが食品に付着するから危険」という説明に根拠がないからといって、すべての固形燃料で食品を直接加熱しても安全だと断定できるわけではありません。
固形燃料には製品によって成分や添加物、想定されている用途が異なる可能性があります。実際に食品の網焼きを使用例として挙げている製品もあれば、メーカーが直接調理を用途として示していない製品もあります。
そのため、食品を直接炎に当てる使い方をするのであれば、使用する製品の表示やメーカーが示している用途を確認するのが確実です。「固形燃料だから危険」「固形燃料だから安全」と一括りにするのではなく、使用する製品の用途に従うというのが一番シンプルな考え方だと思います。
なぜ「固形燃料の直火は危険」という話が広まった?
この部分を調べていて分かったのですが、固形燃料とメタノールをめぐっては、以前からネット上で同じような混乱が起きていました。
「メタノールには毒性がある」
という事実から、
「メタノールを燃料にしている固形燃料も危険」
さらに、
「その炎で焼いた食品も危険」
と話がつながり、直火調理によって健康被害が起こるという情報が広まった時期がありました。
実際に、固形燃料を使った直火調理を紹介したアウトドア関連の記事が「メタノールによる健康被害のおそれがある」として削除・訂正された例や、同様の危険性を紹介した動画の投稿者が後に説明を訂正した例もあります。以前のこの記事も、結果として同じ誤解を広げる側に回ってしまっていました。
ただ、重要なのは「ネットの情報は信用できない」という話ではなく、もっともらしい説明でも、その前提となる事実と結論の間に飛躍がないか確認する必要があるということだと思います。「メタノールには毒性がある」という部分が正しいため、その先の説明まで正しいように感じてしまいやすい話でした。
今回改めて調べてみて間違いが明らかになり、今後私自身も注意したいと思います。
固形燃料で本当に注意したい危険性

では、固形燃料を使ううえで実際に気をつけるべきことは何でしょうか。
固形燃料そのものの誤飲・誤食
まず注意したいのは、燃焼前の固形燃料そのものです。メタノール系固形燃料に含まれるメタノールには明確な毒性があります。
メタノールは経口摂取だけでなく、吸入や皮膚からも体内へ吸収されます。厚生労働省の資料では、急性メタノール中毒によって代謝性アシドーシス、中枢神経系への影響、視覚障害や失明などが生じ、場合によっては死亡することも示されています。
固形燃料は食品ではありません。特に子どもやペットがいる環境では、誤って口に入れられない場所に保管する必要があります。
火災ややけど
固形燃料は小さいので忘れがちですが、当然ながら燃料です。燃焼中の燃料へ触れればやけどをする可能性がありますし、周囲の可燃物へ引火すれば火災につながります。
また、メタノールの炎は条件によって見えにくいことがあります。燃焼が終わったように見えても不用意に触れず、完全に消火して冷えたことを確認してから片付けます。
室内では換気にも注意する
「固形燃料は室内で使うと危険なのか」という疑問もあります。
旅館や飲食店の卓上鍋で使われていることからも分かるように、固形燃料の室内使用そのものが一律に禁止されているわけではありません。
ただし、燃焼器具を換気の悪い場所で使うことには注意が必要です。燃料は十分な酸素が供給されなければ不完全燃焼を起こす可能性があります。それに伴って発生する可能性がある一酸化炭素は無色・無臭で、気づかないうちに中毒を起こす危険があります。日本中毒情報センターも、換気の悪い場所で燃焼器具を使用することによる一酸化炭素中毒に注意を呼びかけています。
固形燃料だから特別に危険というより、火を使う以上、閉め切った空間で換気を無視して使用しないことが重要です。製品に屋内使用についての注意事項がある場合は、そちらを優先してください。
燃焼中のガスを積極的に吸い込まない
メタノールは吸入によっても体内へ取り込まれる物質です。
ただし、通常の用途で固形燃料を燃焼させた際に、どの程度未燃焼のメタノールが空気中に残るのかは、今回確認した資料だけでは一律に評価できませんでした。
そのため、「普通に使えば絶対に問題ない」「少し吸っただけでも危険」のどちらとも断定できません。少なくとも、顔を炎へ近づけて燃焼ガスを積極的に吸い込むような使い方をする必要はありませんし、屋内では適切に換気して使用するのが安全です。
固形燃料の保管方法にも注意
固形燃料は時間が経つと小さくなってしまうことがあります。これは、含まれているメタノールなどが徐々に揮発してしまうためです。
以前のこの記事では、固形燃料をまとめて密閉容器(タッパー)へ入れて保存する方法を紹介していました。ただし、製品によってはSDSなどで他の容器へ移し替えないよう指定されている場合があります。
そのため、基本的には購入時の包装を維持したまま、メーカーが指定する方法で保管するのが確実です。乾燥を防ぐためにさらに密閉容器へ入れる場合でも、元の包装から燃料を取り出して裸の状態で移し替えるのではなく、包装された状態のまま保管するのがいいでしょう。
固形燃料は「危険な燃料」なのか
固形燃料について調べ直してみると、以前私が考えていたよりも、話は単純ではありませんでした。
メタノールを主成分とする固形燃料が存在すること。メタノールそのものには、失明や死亡にもつながる明確な毒性があること。これは事実です。一方で、
「メタノールには毒性があるから、固形燃料の炎で加熱した食品にもメタノールが付着して危険」
という説明には、今回調べた範囲では十分な根拠を確認できませんでした。むしろ、メタノール系固形燃料を製造するメーカー自身が干物の網焼きを用途として紹介している例もあります。
だからといって、固形燃料を何にでも自由に使っていいということでもありません。
誤飲・誤食を避ける。火災ややけどに注意する。室内では換気する。そして、食品を直接加熱する場合を含め、メーカーが想定している用途や使用方法を確認する。
固形燃料を必要以上に怖がるのでも、安全だと思い込むのでもなく、何が本当に危険なのかを理解して正しく使うことが大切です。以前この記事を読んでくださった方には、正確ではない情報をお伝えしてしまいました。改めてお詫びします。
今回の更新では、確認できる資料をもとに内容を全面的に見直しました。これからも新しい情報や、この記事の内容を修正すべき信頼できる資料が見つかった場合には、その都度内容を更新していきたいと思います。